慶應義塾大学医学部の小林英司特任教授、同内科学(循環器)教室の佐野元昭准教授らの研究グループは、株式会社ドクターズ・マン(代表取締役 橋本総)との共同研究により、臓器保存液の中に速やかに水素ガスを圧入することによって、高齢ミニブタ(ドナー)から摘出した血流循環停止後のマージナルドナー臓器(血流が止まった状態で、ある程度時間が経過した傷害臓器)を、移植可能な臓器へと蘇生させることを証明しました。
今回の研究開発内容は、水素ガス貯蔵装置として利用されている水素吸蔵合金キャニスターから、臓器保存液を収容した容器内に水素ガスを瞬時に圧入することによって、わずか数分で、安全に水素含有臓器保存液を生成する新しい方法であるとのこと。
※水素吸蔵合金キャニスター:水素を吸収・放出する特性を持つ水素吸蔵合金が充填された容器で、コンパクトで安全、繰り返し利用することが可能なガスボンベに代わる新しい水素供給ツール。
心停止ドナーを含むマージナルドナーからの臓器移植は、臓器の温阻血障害に加えて、臓器保存液中での冷保存障害が、移植時に強い虚血再灌流障害を発生させ、さらに移植後に高い確率で無機能状態を発生させます。そのため、臓器保存液に簡易な方法で水素ガスを充填することで、移植前に障害臓器の機能再生を進め、移植後の予後を改善させることが期待されていました。
本研究グループが新規に開発した方法では、手軽に移植用臓器の摘出現場に水素ガス発生源を持ち込むことができるため、緊急時にもドナー臓器摘出の現場において、臓器保存液中に速やかに水素ガスを圧入することができます。
本研究結果は、従来移植不適用なドナー臓器利用拡大の一助となると期待されます。
本成果は、2019年10月1日(米国東部時間)米国科学誌『PLOS ONE』オンライン版に掲載されました。
プレスリリース全文
慶応大学では、これまでも厚生労働省の先進医療Bとして心停止後症候群に対しての治療として承認された「水素ガス吸入」の治療法に取り組むなど、水素を利用した治療法に取り組んでいました。今回の開発も水素ガスを利用した医療の研究を行う慶応大学ならではの成果と言えるのではないでしょうか。今後も大学と水素関連企業との共同研究に期待したいところです。